名古屋白龍 住環境を守る会
高層新築マンション建設反対運動 カルティア瑞穂ヶ丘・イワクラ ゴールデン ホーム・日本建設・瑞穂マンション反対

名古屋市立大学名誉教授
山田 明 レポート

名古屋白龍「マンション建設反対つぶし事件」

2018年4月13日

 先月、名古屋市立大学病院で眼科の定期検診後、瑞穂区白龍の15 階建てマンション現場に駆け足で行ってきた。マンションは完成したが、まだ「モデルルーム公開中」と大きな垂れ幕が架かっていた。

 駐車場前の道路沿いには、「罪をでっち上げ 建つ15 階」と書かれた看板が目についた。道路沿いの住宅壁には「住民は苦しんでいる」「無罪確定」といった掲示がぎっしりと張られている。掲示のなかに、私のレポートも大きく拡大されて並んでいる。地域の人たちに読んでもらっているようだ。

マンション建設反対の住民リーダー奥田恭正さんが不当に逮捕された事件で、奥田さんの無罪が確定した。刑事裁判としては、まさに「祝99.9%」だ。この「でっち上げ」事件に関心をもち、裁判を傍聴してきたので『ジャーナリスト』3 日25 日号に寄稿させてもらった。名古屋地裁の無罪判決はちょうど2 ヶ月前の2 月13 日だった。長めの記事であるが、編集前の原稿を下記に添付しておきたい。


マンション建設反対運動のリーダー無罪確定

 2 月13 日、名古屋地方裁判所は名古屋市瑞穂区の奥田恭正さんに無罪の判決を言い渡した。寒風吹きつける地裁前に詰めかけた地元住民、支持者に「無罪」の報告をする奥田さん。本件は高層マンション建設に反対する運動のリーダー奥田さんが、現場監督の胸を両手で突き飛ばしたとして、「暴行罪」で逮捕・勾留、起訴された事件である。起訴直前には、警察・検察は奥田さんの自宅や経営する薬局まで捜索した。

 判決の日から14 日。奥田さんは勾留中のような時間の長さを感じたという。名古屋地検は判決内容を検討した結果、原審の判決を覆すのは困難と認められたので控訴しないと決定。検察のメンツよりも、無実という真実が勝った。これで無罪が確定したが、奥田さんは「罪を作って逮捕するのか。やっていない、と最初から言っていることを証明するのに、なぜこんな労力が必要なのか」。警察や検察への、やりきれない思いを吐露した(朝日新聞3 月1 日)。

 刑事裁判は99.98%が有罪といわれる。奥田さんが無罪判決を勝ち取ったのは、まずは奥田さんが一貫して「暴行」の容疑を否定したことだ。マンション紛争で初めて住民が逮捕された事件と言われ、全国弁護団が結成された。監視カメラの鑑定や被害者証言の矛盾を突くなど、粘り強い弁護活動が行われた。地元住民とそれを支援する人たちの力も大きな役割を果たした。検察が控訴断念するよう求める署名が、短期間に全国から寄せられた。

 マンション建設現場で抗議を続け、法廷に足を運んだ住民たち、なかでも女性パワーは特筆される。それと建設現場を取り巻く抗議の看板やポスター、「かわら版」や斬新なホームページも、不当な事件を広く知らせる上で威力を発揮した。マスコミの報道も日増しに増えていった。

 弁護団は声明の中で、「本件のような企業と警察・検察権力の結託による反対派住民の弾圧を許さなかった」という点で判決を評価する。一方で、暴行がなかったなら現場監督は意図的に倒れたはずであり、判決ではその点を評価せず不満が残る。本件は「共謀罪の先取り」として注目を集めたが、「仕組まれた」住民運動弾圧事件の解明が求められる。岐阜県大垣市でも、住民運動つぶしの市民監視事件が起こっている。

 奥田さんは判決後、記者から感想を聞かれ、「マンション建設反対運動のなかで起きたことであり、その問題が解決しないと喜べない」と語った。建設業者が住民の声を無視して建設した15 階建てマンションは「完成」した。1 年半にわたる奥田さんの裁判は終わったが、日影違反による建築基準法違反、住民監視カメラ、工事騒音撤去の訴訟が進行している。施工業者への訴訟も検討されるだろう。

 閑静な住宅地に似つかぬ、威圧感のあるマンション。判決翌日14 日の朝日新聞で、公判を傍聴してきた五十嵐敬喜・法政大教授は「問われるべきなのは、名古屋市の姿勢だ。あの街に高層マンションを建てていいのか。住民参加で見直せる仕組みを作るべきだった」と。名古屋市ではリニア新幹線建設により、開発ラッシュが続き、規制緩和による住環境の悪化が加速する。

 共謀罪先取りと言える弾圧事件とともに、都市計画行政のあり方が問われている。